ロールモデルとは
ユニカセでは、フィリピンの貧困層出身者が社会参画した結果、経済的・精神的自立を果たし、貧困を脱却した成功例のことを「ロールモデル」と呼んでいます。
心にトラウマを抱える不安定な青少年たちと始めたレストランの運営は、決して楽な道のりではありませんでした。自信を喪失したり、家族に足を引っ張られてしまった青少年たちも多く、ビジネスとして十分なサービスの提供をできないことも多々ありました。
2010年の創立以来、ユニカセの存在意義や可能性をご理解いただき、応援してくださったお客様やご支援者様に支えられ、皆様と起こした奇跡の連続で今があります。貧困層出身者の青少年たちが、どんなに辛い環境で生まれ育っても、笑顔で仕事ができるまでに人生を変えることができたのは、彼ら自身の努力と、彼らを支え続けてくださっている皆様のお陰です。心から感謝申し上げます。
ストリートチルドレンの経験を乗り越え、経済的自立を達成したグレイス

グレイスがユニカセと出会うまで
グレイスは、マニラ首都圏の南に位置するラグナ州ビニャンで、8人兄弟の長女として生まれました。ビニャンは1年のうち半年以上が洪水被害に遭っている貧困地域です。グレイスの家族は経済的に非常に厳しい生活を送っており、弟や妹たちを食べさせるために、グレイスは幼い頃から児童労働を強制させられました。さらに、父親から繰り返し虐待を受けていたグレイスは、このままでは両親と同じような貧困生活を送ることになると不安を感じていました。

そんな中、大学を卒業すれば生活が変わるかもしれないと思い始め、12歳で家出を決意しました。その後、路上生活をしていたところ、バラーニー(フランスのNGO)に引き取られ、その施設で育ちました。
このような困難な状況の中で思い描いていた夢は、まず大学を卒業すること、そして経済的に苦しむ親世代を支援するために、彼らを雇うビジネスを始めることでした。
ユニカセ・レストランでの経験

18歳になった時、バラーニーに紹介され、ユニカセ・レストランで働くようになりました。ユニカセでトレーニングを受けたことで、以前の貧しい状況下では、決して見ることができないと思っていた別の人生観を学ぶことができました。一方、ビジネス全般の知識をさらに得たいと思うようになりました。幼少期に経験した野菜などの販売を通して、お金に関する知識は身についていたものの、ビジネスとマネジメントの専門知識を習得するため、ユニカセで働きながら、大学に通い始めました。
当時、レストランで働きながら大学での学びを両立させる中で、最も苦労したのは、やる気や意思があっても体力の限界を何度も感じたことでした。逆境を乗り越えるべきか、それともあきらめるべきか、その狭間で自分自身と常に向き合いながら、将来に大きな影響を及ぼす決断をしなければならない、とても重要な局面でした。
学業と両立させながら、故郷に残してきた兄弟たちを守り、大学の学費を支払うためにユニカセで必死に働き続けた結果、最終的には接客担当としてベストワンに評価されるまでに成長しました。当時、グレイスはスタッフの中で年下だったため、周囲は経験豊富なスタッフばかりで、接客担当ベストワンは高いハードルだと感じていました。そこで、ベテランのスタッフとの連携や協力を意識しながら知識を吸収し、お客様一人ひとりのニーズに合わせた丁寧な対応を心がけました。

グレイスは、「お客様が笑顔で『美味しい!』と言ってくださる瞬間が仕事の原動力でした。特に、常連のお客様から『また来るね』と言っていただけると、とても嬉しかったです。」と、レストランで働いていた時のことを振り返ります。

ユニカセ・レストランで得た教訓と将来的な目標
グレイスをはじめとするユニカセ・メンバーたちは、レストランで働きながら、青少年育成事業において、自ら考え、行動に移すまでのステップを重視した実践的なトレーニングで学んでいました。日々、トレーニングで学んだスキルをリアルなビジネスの現場で応用することで、仕事の質を向上させ、お客様にも満足していただくことができました。さらには、グレイス自身の夢である「経済的・精神的自立」という長期的な目標を達成することができました。
彼女がユニカセで得た教訓は、ロールモデルとして貧困層の人々に寄り添いつつ、試練に直面した際も自分を鼓舞して最後まであきらめず、良い結果を導くような決断をすることでした。個人と組織の成功を目指して、これらの教訓を仕事へのモチベーション維持に応用しています。

グレイスはユニカセ・フィリピンのロールモデルとして活躍していますが、その過程では多くの挫折や困難がありました。そうした経験を経たからこそ、彼女は貧困層の人たちに伝えたい、大切な想いがあります。
まず、困難は人生の一部に過ぎず、過去の自分から成長することの大切さです。試練をどのようにして乗り越えたかを振り返り、ポジティブな気持ちを持ち続けることで、前に進むことが出来ます。過去の経験は、強くて新しい自分を作るからこそ、あきらめずに前を向き、少しずつがんばることが大事です。
また、貧困層に生まれても、そのまま貧困層でとどまるかどうかは自分の選択次第であって、人生は自分で決める権利があるということです。試練と向き合いながら、様々な経験を積み重ねていくことで、内面が豊かになり、前向きな考え方を持つようになります。

ユニカセ・レストランをはじめ、多くの経験を積む中で、彼女が幼少期の頃に描いていた夢にも変化が起こりました。当時は親世代を雇うビジネスを考えていましたが、次第に青少年を雇用するビジネスを始めたいと思うようになりました。それは、青少年たちが自分自身を支える力を身につけると同時に、将来的に彼らが親になった時に、子どもにも教育を受けさせることができ、貧困の連鎖を断ち切る大きな一歩になると考えたからです。
グレイスは、この夢が、彼女自身や青少年一人ひとりの成長だけでなく、社会全体の発展に繋がると確信しています。次世代に希望を与え、より良い未来を切り拓く力を育むため、彼女は一歩ずつ前に進んでいます。

現在も、グレイスが生まれ育ったラグナ州ビニャンの洪水被害の状況は十分に改善されていません。経済的自立を達成したグレイスは、貧困を脱却したロールモデルとして、故郷の人々の生活改善のためにできることを模索し、取り組みたいと考えています。
ユニカセでの学びを活かし、彼女はこれからも自分自身で新たな道を切り拓いていきます。